生物の進化 −古生物の部屋

生命の進化

1.はじめに

地球が誕生したのが46億年前.そして,生命が誕生したのが38億年前だと言われている.生命はこの38億年の間,非常に多様に進化し,そして絶滅し,現在に至る.いったいどのような変遷をたどってきたのか,興味深いところである.

ここでは,その生命の歴史をざっとおさらいしてみたいと思う.

2.生命の誕生〜微生物の世界 (38億年前〜6億年前)

生命の誕生は38億年前と言われている.これは,グリーンランドのイスアと呼ばれる地域における炭素同位体比の証拠から言われているのだ.ここにある堆積岩の中の炭素同位体比を測定してみると,生物が作ったと考えられる測定値が出てきたのである.このことから,生命は38億年前に姿を現したと言われている.

図1 生物の分子系統図

生命がどこで生まれたかには,数々の説があるが,最も有力なのは熱水噴出口である.というのも,図1に見られるような系統樹が最近のDNAの研究によって明らかになってきました.この図で一番下が生命の祖先です.この祖先に近いいくつかの系統の線が太くなっているのがわかると思いますが,この太くなっているものは好熱菌とよばれる微生物たちなのです.

つまり,生命の祖先に一番近い生物は熱に強く,よって,生命は原始地球の熱水噴出口で誕生したと考えられるのです.そして,初期の生命は嫌気性の細菌であったと考えられていますが,それが,シアノバクテリアなどの光合成を行う微生物に進化していったようです.

図2 地球史における縞状鉄鋼層の変化

最古の化石は,35億年前の微生物の化石ですが,これはシアノバクテリアと考えられています.シアノバクテリアは,植物と同じように光合成を行うことができ,これの活躍によって,地球上に徐々に酸素が増えていったと考えられています.

酸素の増加は,縞状鉄鋼層の存在が証拠になっています(図2).図2は先カンブリア時代の32億年前から18億年前までの縞状鉄鋼層の量を示しています(図2の一番上の図).この縞状鉄鋼層は,当時の海洋中にたくさんあった鉄と,シアノバクテリアによって増え始めた酸素とが反応して作られたものです.18億年以降になると,大気,海洋には酸素が多くなったと思われるのですが,多数の鉄が海洋中から無くなり,縞状鉄鋼層が形成されなくなったと考えられています.

図3 オーストラリアの約6億年前のストロマトライト

また,シアノバクテリアの証拠は,ストロマトライトとしても残っています.ストロマトライトは,現生ではオーストラリアのシャークベイなどの限られた地域でしか生息していませんが,先カンブリア時代は,非常に広範囲で存在していました.

このストロマトライトは,シアノバクテリアによって作られたもこもこの炭酸塩岩です(図3,4).

図4 図3の一つのストロマトライトの拡大

大気中に酸素が増えてくると生物にどのような変化が起きてくるのか?

そもそも,生物にとって,酸素は毒でした.特に嫌気性細菌などは,酸素がある状態では生活できないのです.それが,ある時点で酸素に対する耐性を整え,逆に酸素を利用できる生物が出現したのです.

酸素は,通常では毒である一方,エネルギー効率から考えると,非常にすぐれた元素です.つまり,エネルギーを多く消費するような我々にとっては,非常に有効なのです.それで,この酸素を利用する細菌が増えはじめ,そして多細胞生物が誕生しました.

引用文献

Bjerrum, C. J. and Canfield, D. C. (2002)

3.多細胞生物の夜明け-エディアカラ生物群

図5 エディアカラ生物群のDickinsonia costata

初期の多細胞生物については,諸説ありますが,確かな化石の証拠としては,エディアカラ生物群があります.

エディアカラ生物群は,1947年,スプリッグ博士によってオーストラリアのエディアカラから発見されました.その後,ロシアのホワイトシー(white sea)や,カナダのニューファンドランド,サイベリアなど,世界各地から同様の生物群が多数産出が報告されています.

図6 エディアカラ生物群の化石 属種不明

これらの生物は,一様に平たく,殻などの硬組織を持たない生物群でした(図5,6).これらの生物が現在の多細胞生物であるかどうかは,はっきりわかっていません.むしろ,現在にはつながらない生物であると言われています.しかし,中には,クラゲなどの刺胞動物や棘皮動物の祖先と考えられているものもあり,現在の多細胞動物につながる生物群であったのかもしれません.

エディアカラを取り巻く地質,化石については,エディアカラ巡検をご覧下さい.

図7 先カンブリア紀の生痕化石

 また,この当時の生き物たちは,海の底をはい回ったりして生活するタイプでした.それが,この次の項目で話すカンブリア紀に入ると,海底に穴を掘って生活するタイプの生物が出現したのです.

図7, 8に示した2枚の写真は,それぞれ先カンブリア時代(図7)とカンブリア紀(図8下)の生痕化石です.図7では,層理面を見ているのですが,うねうねとはい回った跡みたいなものが生痕化石です.つまり,この生痕化石は,当時の海底面をはい回っていた跡になります.一方,図8は,カンブリア紀の生痕化石ですが,これは,地層の断面を見ています.この生痕化石は鉛直方向に穴を掘って生活していることがわります.

図8 カンブリア紀の生痕化石

ようするに,先カンブリア時代においては,海底面をはい回るだけの生物であったのが,カンブリア紀になると,海底に穴を掘って生活するタイプの生物が出現したわけです.生物の生息場所のドラマティックな変化を見て取れます.

4.顕生代の生物多様性

いよいよ顕生代に入ります.エディアカラ生物群といった華やかな生物達も,実は,現在の生物につながらない生物群であり,先カンブリア時代の終わりに絶滅した生物だと考えられています(最近では,エディアカラ生物群のいくつかの生物は現在につながる物だと考えられているようです.(2003.11.25加筆)).そして,本当に我々につながる生物が出現し始めたのが顕生代と呼ばれる時代です.顕生代は,5億4300万年前から現在までを指し,カンブリア紀から始まります.

図9 顕生代の海洋無脊椎動物の多様性変動

Sepkoski, 1984, Benton, 2001を元にした.地質時間スケールは,GSA, 1999を元にしています

図9に顕生代を通じての海洋無脊椎動物の生物多様性を示します.ちなみに,各紀(カンブリア紀とか第三紀とか)を仕切る線の横に書いてある数字の単位は百万年です.

図9の様に,先カンブリア時代から現在にいたるまで,概ね多様性が増加している方向にあるのが見て取れます.これは,化石記録の問題もあるので,一概に言えませんが,少なくとも,非常に大きな変動をしているのが見て取れます.ちなみに,印は大量絶滅を表しています.

生物の多様性は,このような大きな変動を示しており,幾度もの絶滅事変を乗り越えて現在に至っているわけです.それは5億4300万年という非常に長い歴史を持っています.この大きな歴史は,古生代,中生代,新生代という3つの代(Era)によって分けられ,さらにカンブリア紀とか第三紀と言ったように紀(Period)という単位で,11の紀に分けられています(図9参照).これらの代や紀の区分は,生物相の違いによって分けられているのです.図9を見てもわかると思いますが,これらの代や紀は,決して等間隔ではなく,不規則な時間幅を持っています.これは,生物相の変化にあわせて,代や紀を定義しているためです.

つまり,ある化石が発見されると,それで,その地層の時代が決定するわけです.このような化石を示準化石と呼んでいます.

それでは,各時代に特徴的な生物相というのはどんなものなのでしょうか?また,それぞれの時代に栄えていた生物が,どうして絶滅してしまったのでしょうか?

それについては,これからまとめていきたいと思います.