【解説】化学合成生態系とは何か?
化学合成生態系とは化学合成細菌(イオウ酸化細菌などの還元物質を酸化する際などに発生する化学エネルギーを利用して生合成する)を一次生産者とする生態系のことです(図1).

図1 化学合成生態系の模式図

図2 日本海溝のシロウリガイコロニー
この生態系は我々が属する光合成生態系(太陽エネルギーによって生合成する植物や藻類などを一次生産者とする生態系)とは一線を画しています.化学合成生態系は光の届かない深海などで,メタンや硫化水素が噴出する熱水噴出口やメタン冷湧水周辺において成立しています.代表的な大型生物にシロウリガイ(図2)やハオリムシ(チューブワーム)がいますが,彼らはイオウ酸化細菌を体内に共生してエネルギーを得ています.そのため口や胃などの摂食・消化器官が退化していることがしばしばあります.
極限環境−化学合成生態系の成立する環境
化学合成生態系は,そのエネルギー源である還元物質が多く存在する場所に成立します.メタンなどは強力な還元剤で,酸素を「消費」します.つまり,還元物質が存在する環境は酸素が少なくなるのです.さらに,例えば硫化水素などは通常の生物には「毒」です.我々人間が硫化水素を吸うと,血液中のヘモグロビンが酸素の代わりに硫化水素と結合してしまい,我々は酸欠で死んでしまいます.また,そもそもメタン冷湧水や熱水噴出口は深海という圧力が高くて光の届かない環境であり,メタン冷湧水の場合は低温(だいたい数℃)で,熱水噴出口の場合は高温(ときに400℃近くに達する)です.つまり,化学合成生態系は極限環境に成立していると言えます.
そんな極限環境にどうやって多細胞生物が進出していったのか.そして進出後,どうやって進化していったのか.これが私の疑問であり,現在の研究テーマの究極の目的でもあります.「毒」をエネルギー源に利用するなんてそれだけですごいことです.
元々は,酸素ですら生物にとっては毒だったわけですが,化学合成群集は硫化水素と酸素という2大毒を有効に活用しているのです.すごいと思いませんか?